どうしよう。
キス……しちゃった。
夢? 夢……じゃないよね。
うわー、どうしよう。ヴィクトルとキスしちゃったよ!
僕のこと、好きだって! ヴィクトルが! 信じられない!
うわー! うわー! うわー!
うわー……。
…………。
夢みたいだ……。
世界の全てが手の中に転がり込んで来ちゃった。
あの碧い瞳。近くで見てもやっぱり綺麗だったなあ。
あの碧……。
僕の世界はあの碧から始まったんだ……。
目を覚まして、初めて認識した色。それがヴィクトルの瞳だった。
初めは瞳の色だってわからなかったんだよな。
ただ、目の前いっぱいに碧が広がって見えて、それがとても綺麗で。
「ユウリ」って声をかけられて、それが人の顔だって初めてわかって。
瞳の色だけじゃなく顔も綺麗でびっくりしたんだっけ……。
あの時から、僕の世界は始まった。
ヴィクトルが僕の世界を形作ったんだ。
ははっ、これじゃ鳥の雛のインプリンティングみたいだ。
初めて見たものを親と認識して着いてくっていうアレ。
でも、しょうがないよね。
あんなに綺麗なものを見て心を奪われずにいるなんて、無理だって。
病院で目覚めたあの時、僕の世界は生まれて、それはずっとヴィクトルの形をしてたんだ。
今日、その世界が、手の届くものになっちゃった。
信じられない。
こんな奇跡ってあるんだ。
ヴィクトルみたいな引く手数多の人が、何で僕なんか……。
なんか色々僕のこと褒めてたけど、恥ずかしくて途中から聞いてなかったんだよな。
もったいないことしたなー。
でも、あんな綺麗な人から褒められてもゴーモンなんだよね。
僕みたいな大した取り柄もない人間を、よくもあれだけ褒められるよなあ、ヴィクトルは。
それだけ僕のこと……。
うわー! うわー! うわー!
あーもうどうしよう。明日の朝、どんな顔して会えばいいんだろ。
しかも、あと何時間かしたら、おはようのキス……。
うわー!
こ、恋人? ヴィクトルが僕の恋人? あり得ない……。
あり得ないけど現実なんだよね……。
まだ信じられないけど現実だ。うん、現実。
現実ってコワイ。
夢とか想像とか飛び越えてきちゃったよ。
あー……現実コワイ。
でも……
やっぱ嬉しいな……。
絶対叶うことないって思ってたのに。
絶対絶対知られちゃいけないって思ってたのに。
僕なんかが彼を好きになるなんて、迷惑以外の何物でもないのに。
このロシアで、同性愛に厳しいロシアで、そのロシアの英雄が僕を好きになってくれるなんて。
ヴィクトル……本気なんだな……。
本気で好きになってくれたんだ……。
どうしよう、嬉しすぎて死ぬかもしんない。
いやいや、ダメだダメだ。
冗談でも死ぬなんていうなってヴィクトルにもいったばっかしだし。
本気で好きになってくれたんなら、死んだりしたら悲しませちゃうもんね。
彼のためにも健康でいないと。うん。
明日……もう今日か。今日から新しい世界が始まるんだなあ。
今まで僕の世界は僕しかいなかったのに、今日からは僕とヴィクトル、二人の世界になるんだ。
ヴィクトルっていう美しい世界と僕っていう世界が隣り合うのかー。不釣り合いすぎて笑えそう。
色々いわれるんだろうなー。
めんどくさいなー。
でも、頑張らないと。ヴィクトルのために。
将来、どうなるかなんてわかんないけど、ヴィクトルのためなら頑張れる。
あー、でも、僕を着飾らせようとするのは頑張れないなー。
僕なんかが、ヴィクトルが行くような店の服着たってカカシよりみっともないだけだって、ヴィクトルにいわないとな。
ほんと、ユニ○ロとかで充分なのにさ。何が楽しいんだろう。
ほんと……わかんないことばっかだけどさ。
ヴィクトルがいてくれるなら、それだけで充分。
僕を好きだなんて、おまけまでついてくるんだもん。
あー、どうしよ。
幸せすぎておかしくなりそう。
明日……起きたら、おはようのキス、僕からしてみようかな。
ヴィクトル、どんな顔するかな。
びっくりするかな。それとも笑うかな。
多分、笑うな。
あの、口をハート型にする笑顔かな。それとも綺麗に微笑んでくれるかな。
どっちでもいいな。どっちの顔も好きだし。
僕は笑えるかな。
まあ僕が笑ったってどうってことないけど、もしかしたらヴィクトルが喜んでくれるかもしれないし。
笑顔の練習もしてみようかな。
それで……頑張って手をつないでみようかな。
誰も見てないとこ……車の中とかで。
ヴィクトル、びっくりするかな。
あ、でも調子に乗られたら困るから、やっぱやめようかな……。
ああ、ヴィクトル。
綺麗で、美しくて、かっこよくて、優しくて、面白くて、時々びっくりさせられて。
今日のびっくりが一番だったな。
この先もどんなびっくりが待ってるんだろう。僕の心臓、保つかな。心配。
ねえ、ヴィクトル。
僕の世界の全て。
僕はずっと、ヴィクトルっていう形の世界を生きてた。
これからは二人の世界になるんだね。
見たことない世界って、ちょっと不安だけど、ヴィクトルがいてくれるなら大丈夫。
ずっと一緒っていってくれたもんね。
ずっと一緒に生きていけるんだ。
嬉しいなあ。
今までは
僕の歩む道のずっとずっと先に光り輝く星のようにあなたが立っていて
僕はその光をさして遙かな道のりを歩んでく
そう思ってた
ううん、今も変わらないかな
あなたは僕のともしび
消えることのない炎のように僕の道を照らし続ける道しるべ
でも、明日からのあなたは先にいるんじゃないんだね
すぐ隣で光り輝いて僕の道を照らしてくれるんだね
ああ、明日になるのが待ち遠しいな。
こんな気分で寝るのなんて初めてだ。
そうだ、明日、ありがとうっていわなきゃ。
好きになってくれて、ありがとうって。
それで……僕も好きだよっていってみようかな。今日、いってないもんね、結局さ。それって男らしくないよね。ヴィクトルが僕を好きっていってくれたんだから、僕だってちゃんといわないと。
ああ、ヴィクトル。好きっていったらどんな顔してくれるかな。
ちょっとコワイし、恥ずかしいけど、頑張ってみよう。楽しみだなあ。
ふ、あ……ふ。
そろそろ寝ないと。寝不足になっちゃうよ。
こんな幸せな気分で眠れるなんて幸せ……って何いってんだ、僕。
ヴィクトル。
ありがとう、ヴィクトル。僕の世界。僕の全て。
明日、起きたら、おはようのキス。
で、好きっていう。
手をつなぐのは……明日じゃなくてもよし。焦らない。
ああ、ヴィクトル……。
早く会いたいなあ……。
おやすみ、ヴィクトル……。
また明日ね……。