互いのぬくもりに酔う。
そんな夜が増えた。
一条さんはよく俺の手の、関節のところにキスをする。
指先とかじゃなくて、こぶしに。
何かを殴ったとき、一番痛みが残るところ。
「殴った」という事実が一番鮮明に残るところに。
いたわるように。
なぐさめるように。
わかっててやってるのかな、って考えたこともあったんだけど、
あれは、違うんだってことがこの頃わかってきた。
多分、自分では全然わかってない。
俺が、「何でここにキスするの?」なんて聞いたら、
「そんなことしてるか?」って彼は答えると思う、きっと。
無意識の、思ってたより全然不器用な彼の、彼らしい優しさ。
それが、このキスに感じられて。
だから戦いの後は、彼の部屋で過ごすことが多くなった。
俺、自分は強いんだって思ってた。
一人で当てもなく旅をしたりとか、
それなりに困難に出会ったりしたときとかも今まで一人で切り抜けてきていたから。
だけどそれは。
一人で何でもできることや、他人に頼らないことも確かに強さと呼べるけど、
それだけじゃないんだ。
つらいときこそ笑顔でいられることが強さだと、今でも思ってる。
だけどそれも。
一人でできる、というだけでは、強さとは呼べないんだ。
彼に出会って、想いが通じ合って、二人で過ごす時間が増えて、
俺、初めは不安だった。
自分が弱くなるんじゃないかって。
一人になるのが怖くなるんじゃないかって。
だけど違った。
違ったんだ。
この戦いが終わったとき、―――俺がどうなってるかわからないけど、
生きていられたら、
きっと俺はまた冒険の旅に出る。
誰よりも愛しい人を置いて。
それでも俺は旅に出る。
きっと笑顔で送り出してくれるから。
彼から貰った優しさを心の中にいっぱい詰め込んで。
たった一人で。
俺は冒険の旅に出る。
(2002.10.31)