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「ヴィクトル、僕、部屋で本読むから」

そういって勇利はそそくさと自室に引き上げる。勇利のいう本……というか雑誌だ。ヴィクトルの記事の載った、その手の本や雑誌が発売されると、勇利はいそいそと買いにでかけ、あるいはネットで通販する。うっかり買い逃したときなどはオフィーリアも顔色をなくすほどの嘆きを見せる。

そうして、やり場のない憤りの矛先がヴィクトルに向くこともしばしば。

「どうして教えてくれなかったんだよ!」

「ええ? 発売日なんて覚えてられないよ。俺、もともと忘れっぽいし」

「撮影があったのなら、その日のうちに教えてって、いつもいってるじゃないか!」

「そもそも発売日を知らされないことだってあるからね、無理いわないで」

「あああもう、頼りにならないんだから!」

リビングレジェンド、ロシアの英雄と呼ばれる男を頼りないと評するなんて勇利ぐらいだろう。いや、チムピオーンの関係者には意外と多いかもしれない。

ともかく、首尾よくヴィクトルの記事の載った本や雑誌を手に入れることができた場合、たとえば今日のような場合だが、勇利は夕食を終えるとヴィクトルにもマッカチンにも目もくれず部屋にこもってしまうのだ。

「つまらないねえ、マッカチン?」

くうん、と相槌を打つようにマッカチンが鼻を鳴らす。

勇利がロシアに来たばかりの頃は、それでも気を遣っていたのか、あからさまに自室にこもるということはしなかった。ヴィクトルの不在時にまとめて読むとか、勇利なりに工夫していたのだろう。

それが、だんだんヴィクトルの在宅時にもリビングで読みふけるようになり、今では自室にこもるようになってしまった。

せっかくロシアにまで来てくれたというのに、これでは遠距離恋愛みたいなもので、ヴィクトルとしては不本意極まりない。

「というわけだから、今から勇利の部屋に突撃しよう、マッカチン!」

一緒に暮らしているのに、ついでにいえば精神的労苦の末にようやく恋人になれたのに、同じ屋根の下で離れて過ごすなんてあり得ない。

離れずにそばにいて、イチャイチャしてこその恋人じゃないか!

そんなわけで、ヴィクトルは勢いよくソファから立ち上がったのだ。わう! と励ますようにマッカチンが吠えた。


「ゆうり。ゆーうり。勇利。入っていい?」

わうわう! とマッカチンも入室許可を求めるように吠える。この子は普段あまり吠えたりしないのだが、犬には犬の寂しさがあるのかもしれないなとヴィクトルは思う。

カチャ、と軽い音がしてドアノブが下がった。ドアと戸口との隙間から勇利が顔をのぞかせる。

「……なに?」

何その不服そうな顔、と思ったが、ヴィクトルはおくびにも出さず、むしろにっこりと笑いかけた。

「中、入れてよ」

「僕、本読んでるんだけど」

「読んでていいよ。マッカチンとおとなしくしてるから」

「……リビングとか自分の部屋にいればいいじゃん」

「仕事でもないのに、何で同じ家の中にいて別々に過ごさなきゃいけないの。マッカチンだって寂しがってるよ」

きゅーん、とマッカチンが空気を読んだ声を発し、ヴィクトルは胸の中で愛犬を褒め称えた。

「ねえ、ゆうりぃ。寂しいよー」

ダメ押しに、精一杯寂しそうな表情を作ってみせる。ついでに、勇利の紅茶色の瞳もじぃっとのぞき込む。いわば、視線の押し合いだ。そして──

勇利は、はぁ~っと特大のため息をつくと、ドアを大きく開いた。ヴィクトルとマッカチンの勝ちだ。まあ、勝負でも何でもないが。

「おじゃましま~す」

一人と一匹がウキウキと入室する後ろで、勇利は物憂げにドアを閉めた。

「……僕、本読むから相手できないよ」

「うん、わかった」

「ほんとにわかってる?」

「わかってるよ、大丈夫。ねー、マッカチン?」

わふん、とマッカチンが勇利のベッドに飛び乗った。後を追いかけるようにヴィクトルもベッドに座る。そして、一人と一匹はじーっと勇利を見た。

「……僕、本読むから」

「どうぞ」「わふ」

勇利は椅子に腰掛けて机に向かい、さっきまで読んでいた雑誌に目を落とした。ヴィクトルを右斜め後ろに置いて背を向ける形だ。

勇利は集中しようと努めた。今日発売のこの雑誌にはヴィクトルのインタビュー記事が載っている。ジュニア時代からヴィクトルを追いかけているスポーツジャーナリストがインタビュアーで、その誠実な姿勢とフィギュアスケートへの深い造詣で、読者にも名の知られた人物が務めている。発売前から楽しみにしていたのだ。

だが、内容が頭に入ってこない。

目は文字を追っている。しかし、追っているだけで中身がまるで頭に入らないのだ。

原因はわかっている。右斜め後ろから突き刺さる一人と一匹の視線だ。

いやいや、わかっている。ヴィクトルとマッカチンの視線に、勇利が気にするほどの意志も意図も含まれていないことは。本当にこちらを凝視しているかどうかすら怪しい。いってみれば自意識過剰のような状態なのだと自分でもわかっているのだ。

わかっていて、無視し続けられるほどの胆力が勇利にないことが問題なのだ。

そーっと、気取られないように注意してヴィクトルの様子を窺う。

──うわ。

一人と一匹は、勇利のベッドに座って、ニコニコとこちらを見ていた。

勇利が気に病むような、詰問するような意図も、なじるような意志も感じさせない。ただ、「早くこっちを向いてくれないかなー」という期待がオーラのようにヴィクトルとマッカチンを取り巻いているのが、そんな能力のない勇利にもはっきり見て取れる気がするほど濃密に漂っているのだ。

(見るんじゃなかった……)

あんなにも期待丸出しで見られているとわかって、無視し続けるなんてとてもできない。

(これを無視できたらメンタル強くなるのかな……)

そんな考えも頭をよぎったが、こんなトレーニング法ではメンタルが強くなる前に胃をやられそうだ。

でも、読みたい。発売されるのを楽しみにしていたのだ。

となれば、執るべき手段は一つ。

勇利は立ち上がって、決然とヴィクトルに向き合った。

「ヴィクトル、悪いけど、出て行ってくれる?」

「なぜ? おとなしくしてるじゃないか」

「うん、静かにしててくれてありがとう。でも、やっぱり気になるんだ。落ち着かないから──」

ヴィクトルは心持ち表情を厳しくした。

「ねえ、勇利。俺は、君の趣味を邪魔してないし、まるで無視されるみたいに背を向けられても我慢したよ。それなのに、姿を見ていることすらできないっていうのかい?」

ぐ、と勇利は詰まった。正論だけに反論が難しい。しかし、勇利は読みたいのだ。ここで引くわけにはいかない。

「それは申し訳ないし、ありがたいとも思うけど、たとえヴィクトルでも、いや、ヴィクトルだからこそ、そこにいられるだけで存在感が……。だから、悪いけど」

「気が散る?」

「正直にいえば、その通りです。集中して読みたいので、悪いけど、出て行ってもらえると」

「ねえ、勇利」

その声に、勇利の背筋がわずかに伸びた。ヴィクトルの声は、先ほどまでとは違って、硬質な響きを帯びていた。

「君の趣味に口を出す気はないけれど、それじゃあ、あんまりこの家での生活をないがしろにしているんじゃないか?」

生活っていうかヴィクトルを、だろ、と勇利は思ったが口には出さない賢明さは身につけていた。

「ようやく恋人にもなれたっていうのに、放っておかれるのも不本意だ。本や雑誌に載っている俺は、俺本人に付随する情報でしかない。なのに、主体である俺を放っておくっておかしくない?」

「それはそうかもしれないけど、家の中で過ごしてるヴィクトルと、本や雑誌のヴィクトルはまた違うし、それに今読んでるインタビュー記事は、インタビュアーの視点や切り口が独特だから興味深いんだよ」

勇利がそういうと、ヴィクトルはベッドから立ち上がって勇利の手元の雑誌をのぞき込んだ。そして、記事の冒頭からざっと視線を走らせ、「ああ、彼か」と呟くようにいった。

「ヴィクトルのジュニア時代から追いかけてる人だから、知識も豊富だし、プログラムの変遷なんかも詳しい。僕らじゃ知ることのできない、こぼれ話みたいなのがぽろっと書いてあることもあって、この人の記事は特に楽しみなんだ」

「確かに彼の記事は、この手の記事にはめずらしく嘘や間違いが少ない。信頼がおけるというほどではないけど、インタビューを断る気にならない人物ではあるよ」

ヴィクトルの言葉に、勇利は我が意を得たりと勢い込んだ。

「でしょ!? 僕みたいな日本のファンにはさ、間違いが少ないのってものすごく重要なんだよ。だって、記事の内容でヴィクトルのイメージまで左右されちゃうんだから。この人の記事は僕にとって貴重な情報源だったんだ。だから、今でも楽しみで、集中して読みたいんだよ」

「だからって、俺を放ったらかしにしていいことにはならないだろ」

「趣味には口を出さないって、いったじゃないか」

「趣味は持ってていいよ。趣味の時間の使い方に口を出してるの」

「そんなこといったって」

「最近、特にひどいじゃないか。まあ、俺が休養から復帰したばかりってことで、ニュースバリューがあるから記事も多いだろうっていうのはわかるよ。でも、それとこれとは別だろ」

「……」

「恋人を放ったらかしにするほど重要な記事があるなんて俺には思えない。印刷された俺と生身の俺と、どっちが大事なの」

「だって、ここじゃないとヴィクトルがちょっかい出すから読めるものも読めないんじゃないか!」

ついに、勇利はキレた。

そう、勇利だって、別にこもりたくてこもっていたわけではない。

ヴィクトルの家に同居させてもらっている手前、勇利だって気を遣っていたのだ。恋人になってからは、リビングのソファで一緒に雑誌のページを繰ることだってあったのだ。

しかし、しかし。

ぴったりくっついて肩を抱く。この程度は、まあいい。

頬っぺたにキスする。ちょっとびっくりするけど、一瞬だし、まあ許容範囲。

耳たぶや耳殻を唇で食む。執拗に食む。ガサガサ音がするし、いつまでも続くし、誌面に集中したいのに気が散って仕方ない。この辺からイライラし出す。

顔の前に回り込んで唇にキス。読めない。イラつく。邪魔。

「ねーねー、ゆうりー、まだ読み終わらないのー? 俺、飽きたよー」とか何とかいいながらページをつまんで引っ張る。読みづらい。邪魔。うっとうしい。

しまいにはページの上に頭を乗せてこちらを見上げる。大事な限定版や初回版でもやられる。ちょっとやめてよ、シワにでもなったらどうしてくれんの。いくらヴィクトルでもやっていいことと悪いことがあるでしょ。もうイライラMAX。イライラというよりもう怒り。顔だけは笑ってるけど怒髪天。

……こんなことばかりされていては、ヴィクトルと一緒に本を読むなんて気がなくなっても、それは勇利だけの責任ではないと思う。

とはいえ、所詮は居候の身だ、家庭内に波風を立てないようにと気を遣って、それで自室で読むことにしたっていうのに。

それすら文句をつけられたら、さすがに居候でも腹が立つ。

「大事な本の上に寝っ転がるみたいなことまでされて、一緒に過ごそう、一緒に読もうなんて気になれなくたって、仕方ないだろ!」

「本は本だろ、生身の俺より大事だとでもいうの!?」

「特に貴重な本とか、手に入れるのにメッチャ苦労した本でもお構いなしじゃないか! 僕が大事にしてるものを大事にできない人とは一緒に過ごせなくたって当然だろ!」

「ひどい! 勇利は俺より本の方が大事なんだ! 俺とは遊びだったんだ!」

「誰もそんなこといってないだろ! 僕の大事にしてるものをヴィクトルも大事にしてよっていってるの!」

「俺は本より勇利と過ごす時間の方が大事なんだよ!」

「それじゃあ僕は趣味の時間も持てなくなっちゃうじゃないか! 趣味には口を出さないっていったくせに嘘つき!」

「趣味は問題ないっていっただろ! 俺をひとりぼっちにするの、やめてよっていってるの!」

「僕の大事なものを疎かに扱う人とは一緒にいられません!」

「じゃあ俺と別れるっていうの!?」

「そんなこといってない! 何でわかってくれないんだよ!」

ハアハア、とお互い肩で息をしながら睨み合う。

一触即発か。決裂か。それとも。

マッカチンが二人の周りをおろおろと、うろうろと歩き回る。そうして、ヴィクトルの腰に前足をかけて後足で立ち上がった。まるで、ケンカはやめて、というように。

ヴィクトルは、そんなマッカチンをよしよしと撫でてなだめている。

その様子を見て、勇利は、ふ、と肩の力を抜いた。

「ヴィクトルは、僕の大事なものを大事にしてくれる気はないの?」

「あるよ。勇利の大切なものなら俺だって尊重したい」

「じゃあ、僕が大事にしてる本やグッズを、僕と同じくらい大事にして。そうしたら、一人で部屋にこもるのやめるから」

「お安いご用だよ」

「無造作にさわらないで」

「うん」

「本やグッズに頭を乗せるなんてもってのほか」

「わかった」

「僕が趣味を満喫してる時間をヴィクトルが邪魔してると感じたら、また部屋にこもるから」

「たとえばどんな?」

「耳を食んだり、抱きついて揺さぶったり、膝の上で駄々こねたり」

「そういうことしなければいい?」

「しつこくしなければ」

「OK」

「さっきから安請け合いしてるけど、ほんとにわかってる?」

「失礼だな。俺は勇利との時間を大切にしたいだけなのに」

さすがに安請け合いは失礼だったか、と勇利は、その点は素直に詫びた。とはいえ、あまり簡単にうなずかれると、真剣に取り合っていないのでは、と不信感も芽生えてしまう。

「でも、ずいぶん簡単に譲歩してくれるんだね」

「そうかい? 神殿にこもったデーメーテールを引っ張り出すんだから、それなりの供物を捧げるのは当然だろ?」

神殿にこもったデーメーテール? 天岩戸開きみたいなものかな? あとで検索しよう、と勇利は心のメモ帳に記録した。

「さて、じゃあ、女神も無事に神殿から出てきたことだし、さっそく一緒に読むとしよう。はい、立って立って」

「え、え」

戸惑う勇利に、ヴィクトルはバチン! と音のしそうなウインクを返した。

「その椅子に二人で腰掛けるわけにはいかないだろ。とりあえずベッドでいいよ。マッカチンもいるし」

引きずられるように椅子から立たされ、慌てて掴んだ雑誌を持ってベッドに座る。ヴィクトルはその右隣にぴったり密着して座り、勇利の腰に手を回してご満悦だ。

「さあ、一緒に読もう。俺も、彼がどんな記事に仕立てたのか興味があるよ。どこまで読んでたんだい?」

「えーっとねえ……」



~10分後~


「ゆうりー、最後まで読み終わったじゃないか。なんで最初に戻るのー?」

「記憶にしっかり焼き付けるんだよ。黙ってて」

「えー? 一度読めば十分だろー? そろそろ恋人の時間にしようよー」

「しつこくしないで、っていっただろ。いい加減にしないとトイレにこもるからね」

「俺の載った本をトイレに持ち込むなんて、ほんとに大事にしてるの?」

「だから、そうさせないで、っていってるの」

「つまんないよー」

勇利の身体に両腕を回して、ぎゅうっとしがみつく。勇利の肩に顎を乗せ、ふうっと頬っぺたに息を吹きかけた。

「もう、ヴィクトル、やめて」

それでも勇利の視線は誌面から離れない。耳の後ろに、ちゅっとキスをした。

「やめて」

半分、上の空の声。誌面に集中しているのだ。

実は、集中している勇利の横顔を眺めるのは嫌いではない。試合のときを思わせるキリッとした表情とはまた違った凜々しい顔つきは、ヴィクトルの胸をときめかせる。

それがこちらに向けられていれば最高なのだが。

それでも約束したばかりだし、ヴィクトルは待った。勇利の目線が記事を追い、それに伴ってまぶたが上下するのを、そっと見守り続けた。

ふう、と息をついて勇利が顔を上げた。

「読み終わった?」

「うん、お待たせ。片付けるから、ちょっと離れて」

ヴィクトルが腕を引くと、勇利は立ち上がって雑誌を机の上の、本を並べている所に滑り込ませた。

「本棚、買おうか?」

「うーん、まだいいや。日本から持ってきて段ボールにしまったままなのもあるし……」

「片付ければいいじゃないか」

「読み返したりして、一日や二日で済まなくなりそうだから、今はやめとく」

「なるほどね」

勇利はベッドに戻ってきて、またヴィクトルの隣に腰を下ろした。この上、自分を放ったらかして机に向かったらどうしてくれようと思っていたので、ヴィクトルは少しほっとした。

「お待たせ。でも、ちょっとちょっかい出したね。約束したのに」

勇利がいたずらっぽく笑う。くそ、可愛いな、と、胸の中で軽く毒づいてからヴィクトルは勇利を抱きしめた。

「勇利がやめて、っていったことはしてないよー」

「ええ? ……ああ、まあ、確かにそうだけど」

「だろー? 約束したからね」

ドヤ顔で笑ってみせると、勇利が噴き出した。

「そんな得意げにいうことじゃないじゃん」

「何いってるの。ほんとは押し倒したいくらいなのを我慢したんだから、得意になって当然だよ」

「やめてよ、マッカチンの前で」

「今度、リビングのソファでしない?」

「しません」

「えー」

じゃれ合い、たわむれ合う時間は好きだし、大切だとヴィクトルは思う。

ケンカの後は勇利が優しくなるので、実はケンカもそれほど嫌いじゃない。まあ、軽いケンカに限るし、二日も三日も冷戦が続くような、大きなケンカはごめんだが、日頃のたまった鬱憤を軽く晴らして、二人の間の空気を新鮮なものに入れ換える、みたいなケンカは時々ならあってもいいと思っている。

昨年のグランプリシリーズ中国大会で試合前に泣かれたとき、ああ面倒くさいなと思った自分は、今から思えば別人だとしか思えない。

勇利の険しい顔も、怒った顔も、涙も、向けられるのは自分しかいないと思えば、大切だし、愛しいとさえ思う。

もちろん、笑った顔の方が好きだし、大事だ。いってみれば、勇利ならもう何でもいいのかもしれない。

「それにしても、さっきみたいな話でケンカするの、何回目だっけ」

「覚えてないなあ。俺が忘れっぽいって知ってるでしょ?」

「僕も最初の三回ぐらいは覚えてるけど、ヴィクトルも懲りないよね」

「勇利がすぐに俺を邪険にするからだろ。俺がハセツに行った初めの頃とは大違いだよね」

「だって、くっつくのが怖かったんだもん。雲の上の人がいきなり自分ちに来たら、誰だってそうなるって」

「今はもう怖くない?」

「怖かったら、さっさと振りほどいてるよ」

くすくす笑い合って、それからキスをして。メガネ越しに、勇利の瞳に映る自分を見て、ああ幸せだなあと思う。 マッカチンが、つきあってられないとばかり、大きなあくびをした。



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