「本当に一人で大丈夫? ずっとタイにいたっていいじゃない」
少し口を尖らせてピチットはいう。空港まで来て不満げな様子を見せる親友に、ありがたいと思い、続いて、甘えるな、と気を引き締めた。
「ありがとう、ピチット君。なんとか頑張ってみるよ。今日までお世話になった分はいつかきっと返すから」
「そんなの気にしなくていいんだよ。子供が産まれるんだから、お金は大事にしなきゃね」
「ありがとう。でも、友達だって大事だよ。この先も気兼ねなく付き合っていくために、甘えっぱなしはダメだって思うんだ。だから、いつになるかわからないけど、きっと返すよ。そのときは、今頃? とかいわないで受け取ってね」
勇利の言葉に、ピチットは少し肩をすくめて了解の意を示した。そうして軽くハグをする。ふくらみ始めた勇利の腹部に触れないよう、ごく軽く、別れのハグ。親友はどこまでも優しかった。
「困ったことがあったら連絡して。僕でよかったら飛んでいくからね」
「ありがとう、ピチット君。ほんとにありがとう」
搭乗ゲートが締め切られるギリギリまで別れを惜しんで、勇利は機上の人になった。
直行便でまずは成田へ。千葉で一泊してから東京へ。身重なんだから休息を挟まなきゃダメだとピチットが半泣きで主張するので、のんびりした行程になった。正直いうと、千葉─東京間なんて近い距離で宿泊なんてと勇利は甘く見ていたのだが、成田に降り立つ頃にはヘトヘトになっていて、親友の助言に従ってよかったと心から悔い改めることになった。
無事にホテルの部屋にたどり着き、何はともあれとベッドにそろそろと転がった。
ようやくここまで来た。ここから、またスタートだ。ゼロから……いや、マイナスからかもしれない。
「いやあ、お腹にもう一人おるとやけんプラスじゃろ」
この先、お腹はどんどんふくらんでいくだろう。身動きだってしづらくなるし、簡単にできていたことも難しくなっていくだろう。それでも産むと決めたからには頑張るしかない。これでも九州男児の端くれだ。やると決めたからにはやるのだ。
「おいも頑張るけん、君も頑張りんしゃい」
お腹を撫でながら勇利は子供に呼びかける。これから先は父子二人だ。まずは無事にこの世に迎えてあげよう。
「あ……そろそろ名前ば考えんば」
そこで唐突に思い至った。女の子が生まれたらどうしよう。僕に無事に育てられるのか!?
翌日、東京で両親と落ち合った。
迷惑かけてごめんなさい、と謝ると母に泣かれ、正直──本当に申し訳ないが正直、うへえ、と思ってしまった。しかし、今回ばかりは勇利が全面的に悪い。それに、自分のために泣いてくれる人がまだいるという事実が勇気をくれた。泣く母をなだめ、今日の宿泊先へ向かった。休んでばっかりだなと思った。
ホテルの一室で今までのこと、これからのことを話し合った。
電話で大方は伝えてあるが、やはり顔を見れば様々にいいたいことも訊きたいことも浮かんでくる。両親からは、突然の失踪についてひとしきり小言をもらった。それについてはただ謝るしかなく、言い訳のしようもなかった。
「それで、本当にヴィっちゃんには知らせないつもりと? 仮にも父親なんやけん知らせんわけにはいかんんじゃなかと?」
「知らせんばい。ヴィクトルに迷惑ばかくっわけにはいかんやんか。彼にはおいよりもっとふさわしか人がおるとやけん。おいとは本来、住む世界ん違う人なんやけんさ」
「ヴィっちゃんは迷惑だなんて思う人間じゃなかじゃろ?」
「ばってん、おいは、知らすっつもりはなかけん。お父さん、お母さんも、おいのこと、ヴィクトルに訊かれてん知らんっていって。お願いします」
頭を下げる勇利に、両親は顔を見合わせて困惑していた。
さらに翌日、両親と不動産屋に出向き、電話とメールで仮契約していたアパートの本契約に臨んだ。両親には、勇利の現状と今後についての説明をするだけでなく、保証人になってもらうために上京してもらったのだ。こんなとき、親ってありがたいなと思う。
六畳一間のアパートはきちんとバス・トイレ付で、駅からは少し遠いが病院には至近という物件を選んだ。何もない部屋はがらんとしていて、たったの六畳なのに広く感じた。
「時々様子ば見に来っけんね。身重なんやけん無理はいかんばい。出産ん時は手伝いに来っけんね」
くれぐれも気をつけてと何度も念を押して、両親は長谷津への帰途についた。バス停まで見送り、車内から何度も振り返っては小さく手を振る姿に、勇利も何度も手を振り返しながら、見えなくなるまで見送った。
部屋に帰って、六畳間の真ん中で大の字になった。生活用品を揃えたらこんなこともできなくなる。今だけのささやかな贅沢だ。
ここからだ。ここから新しい人生がスタートするんだ。
予想もしていなかった未来に踏み込んでいくのは正直怖い。将来どころか一寸先は闇という心境だ。
「ばってん、これが、おいん選んだ道だけん」
覚悟を決めたなら、後は進むしかないのだ。
「あ、名前……どうしようかな……」
出産は予定帝王切開で行われた。
産声を聞いても不思議な感じで、赤子を胸の上に乗せてもらってようやく、自分は子を産んだのだと理解した。ぽやぽやとした銀髪がまばらに生えた、しわくちゃの赤子。年配の看護師が「ハンサムな子ねえ」と笑ったので、やっと男の子だと気づいた。
「ハンサムですか? ほんとに?」
「本当ですよ。ほら、手足も長いし、きっとイケメンになりますよ」
「よかったー……」
僕に似なくてよかったと勇利が心の底から安堵のため息をつくと、勝生さんに似てもイケメンですよと看護師がまた笑った。おかしなことをいうナースだな、と勇利は思った。
「あらあら、ヴィっちゃんにそっくりねえ」
母の第一声がそれだったので、やはりヴィクトル似なのだと勇利は嬉しかった。もっとも、母にとって息子に似ていない孫というのはどうなんだろうと思わないでもなかったが。
「勇利、おめでとう。傷はどう? 痛まん?」
「うん、薬ん効いとーけん」
何とか出産までこぎ着けて、無事に我が子を迎えることができた。おまけに子供はヴィクトル似。きっとこの子は色んな意味で人生イージーモードになるだろう。大役を果たして勇利はホッとしていた。
「勇利、写真撮ってよか? お父さんと真利に見せたかけん」
「うん。ばってん、ほかん人には見せんごと、きつう言うてくれんね」
「わかっとーばい。はい、抱っこして」
息子を胸に押しつけられ、勇利は慌てて手を添えた。急な身動きに傷が痛む。次いで、腕の中に重みが落ちてくる。ずっしりとした命の重みだ。この子を守り育てていかねば、そう思っているとシャッター音がした。
「お母さん、声かけてよ」
「よかじゃなか。ほら、よか写真ばい」
目を細めて息子を見つめる自分のどこがいい写真なのかピンと来なかったが、母が続けて息子のアップを撮り始めたので感想は差し控えた。
「それで、名前は決めたと?」
「うん。偉利耶にする」
「イリヤくんね。イリヤくん? ──イッちゃん? おばあちゃんばい」
母は実家に宛ててメールを打ち始めた。勇利はおっかなびっくり偉利耶を抱き直して、しげしげと息子を見つめた。
まだしわくちゃで、どこをどう見ればハンサムに見えるのか勇利にはわからない。けれど、人生の先達がそういっているのだから、この子はイケメンに育つだろう。裕福な暮らしはさせてやれないし、日本人離れした外見のせいでいじめに遭うこともあるかもしれない。でも、人生のスタートラインでは大分いい位置取りで産んでやれたのだから、そこは少し大目に見てほしい。成長して第二の性が何になるのかはこの子の運次第だ。できればそれもヴィクトルに似てくれればいいと思う。
「これから二人で頑張ろうね……偉利耶」
そう息子に語りかける勇利を、メールを送信し終えた母がじっと見ていた。
ヴィクトル引退の報が世界中を駆けめぐった。
ニュースが報じ、ワイドショーが取り上げ、新聞が書き立てる。見ないようにするのは不可能だった。病院の待合室のテレビにチャンネル選択権はない。
画面の中でヴィクトルは能面のような顔をしていた。隣のヤコフコーチは相変わらず苦虫をかみつぶしたような表情だな、と思った。
「モチベーションが湧かない。そんな状態で滑り続けるのはファンにも、競技自体にも失礼だ。それだけだよ」
ヴィクトルの発言を切り取ってマスコミは報じる。この場面だけを何度も見させられた。
もう少し詳しく説明を、と食い下がる記者にヤコフコーチが「競技者にとって競技への意欲が湧かないという以上の説明が必要とは思えない」と切り捨てる。
「今季の滑りを見ていたなら引退の決断も妥当と判断できるだろう」
「しかし、技術的にはパーフェクトとジャッジもコメントしていました。ロシア・フィギュア界にとって、この時期の引退は痛手ではありませんか」
「確かにそうともいえる。だが、ユーリ・プリセツキーも育ってきているし、何よりロシア・フィギュア界は選手層が厚い。ここ数年、シーズンを終えるごとにヴィクトルの引退が取り沙汰されてきたのが現実になっただけだ。いつまでも彼一人に重責を担わせるのは酷というものだ」
「ユウリ・カツキの突然の引退が今季の演技や進退に影響していると、もっぱらの見方ですが」
画面から自分の名が出てきてドキリとする。
ヴィクトルの表情は動かない。口を開くのはヤコフコーチばかりだ。
「それはヴィクトルにとってあまりにも失礼な言い草だ。他国の選手の進退で、自分の滑りをないがしろにするような選手だとでも思っているのか」
言外に、ヴィクトルの今季の成績を見ればわかるだろう──、と匂わせながらヤコフコーチがいう。
「技術的にはパーフェクトと先ほども記者の言葉にあっただろう。グランプリファイナル準優勝、ユーロ準優勝、世界選手権三位の成績は、他人の動向に動揺した状態の競技者に収められる成績ではない。彼の過去の成績と比較すれば物足りなく感じるかもしれんが、一競技者としてみれば堂々たる戦績だ」
そう、ヴィクトルはシーズン初めの大荒れが嘘のように大会という大会で上位に食い込んで見せた。ちらりちらりと入ってくる情報で彼の成績を知った勇利は、吹っ切れたんだな、と安心したものだ。自分の決断は間違っていなかったと。
だが、引退会見に臨むヴィクトルは、勇利の目にはまるで生気が感じられなかった。もともと作り物めいた美貌がますます彼を彫像のように見せていた。冒頭の発言以外は記者からの問いかけにもほとんど応じず、ヤコフコーチが彼の代理人のように受け答えをしていた。
こんなヴィクトルは見たことがない。
軽やかな言葉選びも、穏やかな口ぶりも変わらないのに、まるで用意された原稿を読んでいるかのようだった。
ヴィクトルじゃない。こんなの。
引退という重大事の会見に臨んでいるとしても、彼ならばもっと洒脱に記者と対峙したことだろう。少なくとも勇利の知っているヴィクトルはそういう人だった。
どうして。
その時、焦れたような記者の言葉が飛び込んできた。
「モチベーションが枯れたのはユウリ・カツキと別れたためでは? 二人はかなり親密だったと──」
そこまで聞いて堪らなくなった勇利は、立ち上がってテレビの見えないところに移動した。
胸がドキドキしている。
ヴィクトルの様子は普通じゃない。あれは僕の知っているヴィクトルじゃない。
何があったんだよ。
あれが自分のせいだとは思いたくない。自分ごときの行動のせいで彼があんなになるなんて信じたくない。
腕の中の赤子がぐずりだした。つい腕に力を込めてしまっていたのに気づいて、慌てて抱き直す。誕生直後の真っ赤だった赤子は、抜けるような白い肌の可愛い息子になった。あまりにも自分と似ていない上に、そもそも銀髪は人目を引いた。だから、いつも外出時には帽子をかぶせている。そうでないと職務質問されかねないのが難儀だった。オメガ男性が妊娠・出産することは知られていても、その数の少なさから決して一般的ではない。イクメンなどという言葉が一人歩きしているが、まだまだ男性が赤子を連れていると周囲の目を引いてしまうのだ。
まして彼によく似た子供。瞳の色だけが勇利譲りの鳶色だ。
これから立って、歩いて、走るようになったらもっと目を引くだろう。自分を勝生勇利だと気づく人がいれば子供の素性についていらない勘ぐりをされるはず。もしもその中に度外れたお節介がいて、ヴィクトルに知らせでもしたら……。
あの状態の彼に追い打ちをかけるようなまねは何があってもできない。機械仕掛けの人形のような今のヴィクトルに勇利や子供のことを知らせたらどんなに混乱するだろう。彼に必要なのは自分たちじゃない。もっとほかにふさわしい癒やし手がいるはず。
「もっと田舎に引っ込むべきかな……」
自分の病院のことなら何とでもなる。ヴィクトルのためにも息子のためにも、もっと人目を気にせず暮らせる場所に移るべきなのかもしれなかった。
「けど、それももう少し君が大きくなってからだねえ、偉利耶?」
語りかける勇利の声が届いたのか届かなかったのか、偉利耶は大きくあくびをした。
「それにしても勇利、アンタねえ、もう少し自分の遺伝子入った子供産んでも罰は当たらないと思うわよ」
「変なこといわないで下さいよ、ミナコ先生」
「だって、全然アンタに似てないじゃない。誰かさんにそっくりよ、この子」
「僕に似てるとこだってありますよ。目の色とか耳の形とか」
それだけじゃあねえ、といいながらミナコは偉利耶に「ねえ?」と語りかける。声を出して笑うようになった偉利耶が、ミナコに手を伸ばしてきゃっきゃと笑う。
「今のうちですよ、ミナコ先生。もうそろそろ人見知りが始まるって育児書なんかに書いてあるんで」
「だーいじょうぶよねえ? イリヤ? ミナコおばちゃんですよー、忘れちゃいやーよお?」
つんつん、と指で偉利耶のふくふくした頬っぺをつつくミナコを見て、存外この人も子供好きだよなと思う。勇利はさっきまで偉利耶を抱っこしたミナコの撮影係を命じられていた。父子揃ってこの人に抱かれた写真が残るのかあ、と感慨深い思いがする。ちょっとため息の出る思いでもあるが。
「ミナコ先生、さっき撮った写真、絶対、門外不出でお願いしますよ」
「わかってるわよお、しつこいわねえ。──てゆーか、アンタ、ほんとに誰かさんに教える気ないの?」
「ミナコ先生、交友関係が広いから心配なんですよ。知らせる気はないです。この子は僕一人の子なんで」
「何いってんのよ、人間が一人で子供産めるわけないじゃないのよ。それもこんな向こうにそっくりな子を」
「そこはもう、長年のオタク心に神様が奇跡を与えてくれたとしか」
「やだ、神がかり? アンタ、変な宗教とかにかぶれたんじゃないでしょうね?」
「そんなヒマもお金もないです。偉利耶を育てるので精一杯なんで」
ならいいけど、とどこまで本気なのかわからない呟きを漏らしてミナコはコーヒーカップを傾けた。ちなみにコーヒーメーカーと豆を買ってきたのはミナコで、勝手にキッチンを使ってコーヒーを淹れたのもミナコだ。
「アンタが着るものに無頓着なのはもうしょうがないけど、せめて口に入るものだけはいいものにしなさい」だそうだ。
何だかんだいいつつ心配されている。自分もおむつを替えてもらったことのある(らしい)女性だと思えば、母親同然のふるまいも当然というもの、その心情を思えばありがたさに胸が熱くなる。
「ミナコ先生、夕飯どうします? 食べていくなら用意しますけど。──といっても大したものはできないけど」
「あら、いいわねえ。──といいたいとこだけど、夜は会食の予定が入ってんのよ。オッサンたちと食事より、イリヤを見てる方がよっぽど楽しいのにー」
だからお構いなく、と会話を閉めてミナコはほうとため息をついた。
「おしめ替えた子が、そのまた子供のおしめ替えてるんだもんねえ。年を取るはずだわ」
「ミナコ先生、まだ若いじゃないですか」
「あら、お世辞もいえるようになったの? 子供産むと成長するのねええ」
「からかわないでくださいよ」
気の置けない会話をするのは久しぶりだ。月に一度のペースで長谷津から母親が来てくれるが、それ以外に会話する相手といえば、病院関係者か区から派遣される保健師ぐらいだ。それらの人たちにしても、必要以上に踏み込んだ会話にならないよう気をつけているので親しくなどなりようがない。親しくなって、元フィギュアスケーターの勝生勇利だと知られたら、そこからどう話が広がるかわからない。だから、社交辞令以上のことは話さないようにしていた。
「けど、勇利。寛子からも散々いわれてると思うけど、アンタ、このまま隠し通すのは無理だと思うわよ」
「……そんなことないですよ」
「この子が大きくなったら目立つわよ。誰かさんそっくりに育つのなら天使みたいになるでしょうね。それでも隠せると思ってる? 閉じ込めておこうとでも思ってんの?」
「そんなことしませんよ。……どこか人の少ないところにでも行こうかなって考えてます」
「どこに? 東北のどこかとか? 瀬戸内海あたりの小島とか?」
「どこでも……。日本に限りませんけど」
「馬鹿いってんじゃないわよ。幼子連れて外国なんて、野垂れ死に前提みたいなもんじゃないの。却下。ダメよ。てゆーか、そんな生活、イリヤが可哀想よ」
そうなのだ。そのあたりまで考えて行き詰まる。
ヴィクトルと勇利の子だ。親の素養を考えればスケートに興味を持つだろうし、才能もそれなりにあるに違いない。ゆくゆくはきちんとした教育も与えてやりたい。それには勝手のわかる日本の方がいいだろうし、スケートのできる環境を考えれば居住地は限られる。
国外でスケートのできる環境となると、さらに選択肢は限られるし、スケート関係者には顔を知られている。それでなくても外国で日本人が、全く似ていない子供を連れているというだけで恐ろしく目立ってしまうだろう。あっという間にヴィクトルの耳に入るに違いない。
「腹くくって長谷津に帰ってきた方がいいんじゃないの? その方が寛子たちも喜ぶわよ」
「それも考えましたけど……でも、今はダメです。まだみんな、僕のこと記憶に新しいと思うんで」
もう少しほとぼりが冷めてからでないと……と呟くと、犯罪者みたいなこといってんじゃないわよ、とミナコに叱られた。
「それじゃあね、勇利。体に気をつけんのよ」
「はい。ミナコ先生も気をつけて」
生意気いっちゃって、と勇利の鼻をちょっとつまんでミナコは笑った。
見送りを固持されたので玄関で別れ、六畳間に戻ると急に部屋がしんとして感じられた。偉利耶は喃語を話すようになったとはいえ、それでは会話とは呼べない。けっこう会話に飢えていたのかもしれないと勇利はため息をついた。